V 大学教育研究センターの組織と活動
1 研究部
(1)研究部の課題と組織
神戸大学では,昭和39年に一般教育課程の担当部局として「教養部」が設置されたが,
それ以来一般教育の理念の実現に向け,絶えず教育内容の検討とカリキュラムの改革への
取り組みがなされてきた。しかしながら,そうした制度の枠内での改善の試みには限界が
あることが次第に明らかとなり,様々な形の教養部の将来構想が検討されるようになった。
その中で,一般教育を学内外の研究者と共同研究する「一般教育研究センター」の設置も
模索されていた。そのような取り組みが大学設置基準の大綱化を機に実を結び,新たに大
学教育全体を視野に入れた学内共同教育研究施設として「大学教育研究センター」がスタ
ートしたのは平成4年10月のことである。その際,センター長及び副センター長の管轄
下に研究部と事業部の2つの部門が設置された。
教養部改組案が全学的に認められた平成3年3月に出された,神戸大学教養部による調
査報告書「教養部改革構想」には,大学教育研究センター設置の趣旨として以下の3点が
挙げられている。
@ 現在の日本の大学は,学術研究の高度化と大学教育の大衆化のもとで,教育研究の
内容,組織及び管理運営に関して,改革を必要とする多くの問題を抱えている。この
ため,大学教育に関する専門的研究機関の整備が緊急の課題となっている。
A 大学教育が,学術の発展と社会の変化に適切に対処し得るためには,カリキュラム
の構成,教授内容・方法,教育組織等の不断の点検・改善が必要である。このため,
新しいカリキュラムや教育方法を開発し,その効果を点検・評価し,絶えず大学に提
言を行い得るような,実践的な側面をも備えた大学教育研究センターの設置が望まれ
る。
B 本学では,一般教育,外国語,保健体育の授業は教養部の責任により行われてきた。
しかし,教養部改革についての検討の結果,教養部を廃止し,一般教育等については
全学教官の担当とする方向が固まりつつある。この改革が実現すれば,一般教育等に
ついては従来の責任体制が消滅することになる。そこで,全学組織である教養教育等
運営委員会を設置し,新たな責任体制の確立を目指すこととしているが,本センター
がこの委員会と連携して,カリキュラムや教育方法の改革を行うことにより,教養教
育の一層の充実を図ることが出来る。
このような設置趣旨の@及びAを受けて研究部が,また,Bに対応して事業部が設置さ
れた。
そこで,研究部では,
@ 大学及び大学院における教育・研究の在り方,入学試験方法,大学の公開方法,自
己評価方法等に関する事項
A 全学共通授業科目の教育内容,教育方法,教育体制,実施方法,教育評価当に関す
る事項
B その他センターの目的を達成するために必要な事項
を調査研究することとなった(神戸大学大学教育研究センター研究部及び事業部規程,平
成4年9月30日制定)。
研究部は,専任教官組織を持つことが特徴であり,現在は教授2,助教授2の構成とな
っている。専任教官は,高等教育研究における関心や理論に基礎を置きながら,神戸大学
が直面する入学試験から全学共通授業,専門教育,大学院教育までの大学教育全般の在り
方の問題を具体的に研究しようとしている。しかい,いわゆる大学・高等教育に関する学
術的研究だけに取り組もうとしているのではない。
研究部に専任教官をもつことによって,
@ 全学的な視点の教育に関する調査・分析をする核として機能している
A 新しいカリキュラム・入試改革等を絶えず大学に提言する核として機能している
B 教育改革推進の印刷物の効果的,効率的出版を可能にしている
C 教育改革推進に関する研究会・研修会を恒常的に開催している
D 近畿地区の大学,全国の高等教育研究機関 との研究連携を可能にしている
などの実践的な機能効果も挙げているとみなされる。
研究部のもう一つの重要な特徴は,研究部がセンターの専任教官に加えて,研究員によ
って構成される点である。官職指定の神戸大学入学試験研究委員会委員長及び神戸大学教
務関係事務システム管理委員会委員長と,センター運営委員会から推薦された14部局の
専任教官(任期2年)とが研究部研究員として研究部を構成する。これらのメンバーによ
って,神戸大学が直面する教育問題の実践的研究・開発をする「研究部会」が組織されて
いる。研究部会の機能効果等については,次項にまとめる。
現在の専任教官組織は次のようになっている。なお,平成12年度の研究部研究員の名
簿は巻末に資料としてまとめてある。
専任教官:
波田 重煕 教 授(副センター長,研究部主任,地球科学,平成6年4月16日着任)
川嶋太津夫 教 授(教育社会学,平成5年8月1日着任)
米谷 淳 助教授(心理学,平成6年3月1日着任)
山内 乾史 助教授(教育社会学,平成6年4月1日着任)
(2)研究部会の活動
大学教育研究センターには,大学教育及び大学院教育の課題に関して実践的研究・開発
を行うことを目的として,研究部専任教官,官職指定研究員,各部局選出の研究員(現在
合計19名)で構成される研究部会が設置されている。その統括責任者は研究部主任で,
主任はセンターの専任の教官のうちからセンター長によって指名される。研究部会では,
学内の教育問題の情報交換ばかりでなく,各学部の教育理念や目標に基づいてカリキュラ
ムの見直しを検討するなど,神戸大学が直面する教育問題に関する研究・開発プロジェク
トを積極的に立ち上げて,絶えず大学に提言を行っていくような機能が期待されている。
この考え方にしたがって,センター発足当初の研究部会では,
@ シラバスを積極的に活用していくための方策
A 教養原論の見直し
B 教官の初任者研修
C 授業改善に係わるキー・パーソンとの連携
などの課題を議論しようとしてきた。その結果,前2者については一定の議論の進展を
見たが,後2者のように,全学的に展開する教育の啓蒙活動,FD(ファカルティ・ディ
ベロップメント)活動のような問題に関しては,そのような問題を研究部会で取り扱うこ
と自体に積極的な賛同が得られなかった。さらに,研究部専任教官個人の研究テーマと研
究部会が扱おうとする課題が内容的に重なる場合は,それを研究部会の検討課題とするこ
とには委員の間に強い警戒感があった。また,教養原論の見直しについても,結局平成8
年12月に検討を一旦中断せざるを得ない状況に立ち至った。その原因は,次のような点
にある。教養原論の見直しのような問題は単に全学共通授業科目の問題だけではなく,専
門教育も含めた「学士課程教育」全般に関わる問題であり,また,カリキュラムの改革・
改善は,一般教育等の改革に関する基本方針(平成3年6月27日評議会決定)である
「一般教育等の授業担当責任を全学に及ぼす」という負担問題にも波及せざるを得ない。
そこで,カリキュラムの見直しだけでなく,その実施体制の再検討まで含めた神戸大学の
教育システム全体の見直しをはかることを目的として,平成6年6月に当時の副学長の一
人(小林哲夫教授)を委員長とする「神戸大学教育システム検討委員会」が発足した。教
養原論の見直しはそこで取り上げられた重要検討課題の一つであった。この委員会は平成
8年12月に答申をまとめたが,その中で,残された種々の課題の協議のために,大学教
育研究センター運営委員会と連携しながら審議を行う委員会の設置が提案され,教養原論
の見直しもそこで引き続き審議されることとなったのである。その委員会は,平成9年4
月「神戸大学大学教育委員会」としてスタートした。またそれに呼応して,センター運営
委員会の中にも「教養原論専門検討委員会」が置かれ,同時に文系専門基礎科目,理系専
門基礎科目,及び,外国語科目の各検討専門委員会が設置されることとなった。そこで,
これらの委員会で全学共通授業科目に関する全般的な見直しが審議されている状況では,
研究部会が重複する形で教育問題を検討することは得策ではない,と判断された。そこで,
これらの委員会から教養原論の見直しに関わる何らかの諮問があるまで,研究部会として
は教養原論に関する議論を中断せざるを得なくなったのである。なお,神戸大学教育シス
テム検討委員会では,センター専任教官は専門委員として参加し,全学共通授業科目教科
集団への聞き取り調査や,教養部改組後の新しいカリキュラムのもとで教育を受けた2・
3回生の半数及び全教官を対象としたアンケート調査の企画・作成・実施並びに分析にお
いて中心的な役割を果たした。
平成11年4月に入ると,ようやくセンター運営委員会とも連携を取ることによって,
研究部会の研究計画を「成績評価について」と定め,活動を再開した。このプロジェクト
は,事業部の協力の下に,平成5年度から平成10年度の間に開講された全学共通授業科
目について,成績評価のデータを収集し分析したもので,その結果の概要を平成12年6
月に公表した。その内容は,本報告書にも資料として添付されている。いわゆる出口評価
を求める社会の声や国際レベルでの学位の水準設定の要請など,大学の質の維持向上の観
点から成績評価の厳格化がさけばれるようになり,大学審議会の答申「21世紀の大学像
と今後の改革方策について」(平10年10月26日)の中でも,教育方法改善施策の重
要な柱の一つとして,この問題が取り上げられている。神戸大学においても,キャップ制
の導入などを控え,教育改善のためには成績評価の実態を明らかにすることが重要と考え,
全学共通授業科目の成績評価の実態解明を検討課題として取り上げた訳である。全体の分
析結果のまとめ及び教科集団毎あるいは科目担当教官個々のデータについては,自己点検
・評価をする際の基礎資料として活用されることを目的として,各教科集団あるいは各科
目担当教官個々に配布するようにした。
研究部会では,以上のような取り組みの他にも,研究部専任教官を中心に進められてい
る科学研究費,カリキュラム改革調査研究経費,大学改革推進経費,神戸大学特定領域横
断研究(KURNS)経費等による研究活動への参加を研究員に呼びかけてきたが,これ
まで積極的な参加者は出ていない。研究部会でどのようなプロジェクトを立ち上げていく
かを議論する場合でも同様であるが,研究部会でなかなか積極的な議論に至らないのは,
今日の大学教官が個々の教育・研究面ばかりでなく,各種委員会の活動でも以前より格段
に忙しくなっているという理由があるであろう。さらに前述したように,取り上げようと
する課題が研究部専任教官個々の教育・研究活動と区別をつけにくいと判断されるケース
が多いことにも原因がある。しかしながら,この様な状況は改善されなければならないで
あろう。研究部員には,大学内で教育問題に関しての合意・啓蒙に関わったり,教育改革
を先導発展させる中心的存在であることを十分に認識してもらうことが今後は大層重要で
あると考えられる。そのためには,研究員の現在の任期をもっと長くして,プロジェクト
に本腰を入れて関われる様な体制を整備することも必要であろう。この点に関しては,活
動の中心にある研究部専任教官の責任はさらに重大であることは明白で,責任ある行動が
求められるのは当然である。
研究部専任教官が中心となって自主的に,あるいは,予算を獲得し進められてきたこれ
までの調査・研究プロジェクトを,以下にまとめる。
・「各学部でのシラバス作成のための全学支援システム(データベースシステム)の
構築」
(平成6年度大学改革推進経費 3,842千円)
・「全学共通授業科目等にかかるシラバスの作成」
(平成6年度大学改革推進経費 7,685千円)
・「4年一貫カリキュラムにおける全学共通授業科目の実施状況の調査と教育方法の
改善」
(平成6〜7年度カリキュラム改革調査研究経費
1,387千円(平成6年度)
1,445千円(平成7年度))
・「一般教育改革後の大学教育システムについての調査研究(研究代表者:多淵敏樹)」
(平成6年度神戸大学特定領域横断研究(カーンズ)
2,000千円)
・「神戸大学の授業改善に関する調査研究(研究代表者:多淵敏樹)」
(平成6年度神戸大学特定領域横断研究(カーンズ)
3,000千円)
・「シラバスの運用・評価・改善に関する調査研究」
(平成7年度大学改革推進経費
3,655千円)
・「学士課程と大学院課程のカリキュラムの接続に関する基礎的研究(研究代表者:
波田重煕」
(平成7〜8年度科学研究費補助金一般研究(B)2,700千円(平成7年度)
1,200千円(平成8年度))
・「シラバスの運用・評価・改善に関する調査研究」
(平成8年度大学改革推進経費 4,060千円)
・「一般教育科目等における授業改善実践に関する調査研究」
(平成8年度カリキュラム改革調査研究経費
1,600千円)
・「多人数教育の改善に関する基礎的研究(研究代表者:多淵敏樹)」
(平成8年度神戸大学特定領域横断研究(カーンズ) 14,500千円)
・「シラバスの運用・評価・改善に関する調査研究」
(平成9年度大学改革推進経費 5,000千円)
・「教養原論における授業改善に関する調査研究」
(平成9年度カリキュラム改革調査研究経費 1,263千円)
・「多人数授業の改善に関する理論的・実践的研究」
(平成9年度若手研究者のための研究支援経費(山内乾史助教授)500千円)
・「実験授業の開催」
(平成9年度前期:山内乾史助教授「発達と教育」(教養原論)
平成9年度後期:米谷淳助教授「心と行動」(教養原論))
・「特別講義(自己と他者)」
(平成10年度教養特別講義プログラム推進経費 238千円)
・「特別講義(自己と他者)」
(平成11年度教養特別講義プログラム推進経費 238千円)
・「ファカルティ・ディべロップメントの比較教育社会学的考察」
(平成11年度若手研究者のための研究支援経費(山内乾史助教授)1,000
千円)
・「学生による全学共通授業科目の授業評価」
(平成12年度教養教育改善充実特別事業経費1,375千円)
・「総合教養科目Y(人文・社会分野)」
(平成12年度教養教育特別講義プログラム推進経費222千円)
以上のように見てくると,経常予算以外のプロジェクト調査・研究費が年々減少する傾
向にあることが気掛かりである。一方,今後は大学予算自体が益々厳しい状況となること
も明らかである。したがって,今後もこれまで以上に教育改革を推進していくためには,
研究部員を含めた研究部の教官が協力して,科学研究費補助金など学外からの予算獲得に
最大限の努力を傾けることが必要となってくるであろう。
(3)研究集会
大学教育研究センターでは,設立当初から,年1回「研究集会」を定期的に開催してき
た。毎回,大学教育の改革・システム改善,入試改革,さらに,教官の資質の向上・開発
等々に関連するのテーマを選定しきた。幸いにも,学内のみならず学外からも毎回多数の
参加者を得て,これまでは成功裏に研究集会を開催してくることができた。研究集会と銘
打っているが,この研究集会は広義のFD活動としても位置づけられている。これまでの
テーマ・講演者・参加人数を下に記す。
表1 神戸大学大学教育研究センター研究集会一覧
第1回 Reform In Progress ―大学改革から大学教育改革へ―
(平成6年1月27日)
新野幸次郎(神戸大学名誉教授):「大学改革と大学教育改革」
安井三吉(神戸大学国際文化学部教授):「新カリキュラムを実施して―教養原論―」
瀧上凱令(神戸大学国際文化学部教授):「新カリキュラムを実施して―転換教育科目―」
森脇俊道(神戸大学工学部教授):「新カリキュラムを実施して―工学部の4年一貫教育―」
示村悦二郎(早稲田大学理工学部教授):「大学教授法の改善について」
参加人数(学内・学外):115名(88名・27名)
第2回 大学院教育の充実と学部教育のあり方をさぐる
(平成6年10月11日)
大崎 仁(日本学術振興会理事長):「大学教育再編成の課題」「各大学・大学院における
試み」
松岡 博(大阪大学副学長・法学部教授)
西川示韋一(京都大学工学部長)
村上 敦(神戸大学大学院国際協力研究科長)
位田正邦(神戸大学理学部長)
参加人数(学内・学外):129名(74名・55名)
第3回 Reform In Motion ―よき教授者となるために―
(平成7年10月5日)
天野郁夫(東京大学大学院教育学研究科長):「大学の教育改革」
村田直樹(文部省高等教育局大学課大学改革推進室長):「大学教育の質の維持向上のた
めの方策について」
苅谷剛彦(東京大学大学院教育学研究科助教授):「シラバスの効能―日本型シラバスと
大学教育―」
井上 理(慶応義塾大学総合政策学部教授):「学生による授業評価―その意義と課題―」
参加人数(学内・学外):169名(99名・70名)
第4回 大学人のライフコースを考える
―キャリア・ステージに応じたFDプログラムの構築に向けて―
(平成8年10月8日)
梶田叡一(京都大学高等教育教授システム開発センター教授):「大学人のライフコース
を考える」
川嶋太津夫(神戸大学大学教育研究センター助教授):「助教授インクライシス?」
山下 京(大阪大学人間科学部助手):「若手大学教員として,女性研究者として」
濱田隆士(放送大学教養学部教授・東京大学名誉教授):「情報化社会における生涯学習
と大学制度・大学人」
参加人数(学内・学外):51名(40名・11名)
第5回 キャンパス・ライフ再考
―トータルな人間形成空間として大学を考える―
(平成9年10月24日)
潮木守一(名古屋大学附属図書館長・大学院国際開発研究科教授):「人間形成空間とし
てのキャンパスを考える」
中島利雄(摂南大学就職部長):「就職活動の支援体制について」
峰松 修(九州大学健康科学センター助教授):「学生相談,メンタル・ヘルス・ケアに
ついて」
小林順治(上智大学学生担当副学長・経済学部教授):「クラブ・サークルの意義につい
て」
参加人数(学内・学外):66名(41名・25名)
第6回 大学の教育を評価する
(平成10年12月22日)
市川昭午(国立学校財務センター研究部長・教授):「大学の教育を評価する―その視点
と論点―」
滝 紀子(河合塾教育情報本部副参事):「受験生から見た神戸大学」
中津井泉(リクルート「カレッジマネジメント」編集長):「在校生から見た神戸大学の
教育」
清水建宇(朝日新間社「大学ランキング」前編集発行人):「企業から見た神戸大学の卒
業生」
参加人数(学内・学外):87名(46名・41名)
第7回 選抜から教育へ―大学入学者の選考を考える―
(平成11年10月5日)
荒井克弘(大学入試センター教授):「大学全入時代の入学者選考を考える」
藤原周三(兵庫県立兵庫高等学校長):「高校から見た入学者選考のあり方」
波田重煕(大学教育研究センター副センター長・教授):「大学が考える入学者選考のあ
り方」
夏目達也(東北大学アドミッションセンター教授):「新たな入学者選考としてのAO入
試」
参加人数(学内・学外):78名(45名・33名)
第8回 岐路に立つ日本の大学教育―外国から何を学ぶか―
(平成12年10月4日)
椎貝博美(山梨大学長):「学びなおしは必要ないのか」
潮田資勝(東北大学電気通信研究所教授):「アメリカの大学経験:1年生から大学教授
まで」
永田雅人(京都大学大学院工学研究科教授):「英国の大学における数学教育の特徴につ
いて」
宮尾龍蔵(神戸大学経済経営研究所助教授):「米国の大学のTA研修システムについて」
参加人数(学内・学外):62名(35名・27名)
研究集会のテーマの原案は毎回研究部専任教官で議論し,大学教育研究センター教官会
議に提案して決定されているが,近年この種の研究会が全国の多くの大学等で開催される
ようになったため,テーマが似か寄ることもあり,その選定には苦労することが多い。そ
のような状況も反映してか,参加者数が年々わずかずつ減る傾向にある点は,研究集会を
開催している側としては気になるところである。研究集会終了時に回収しているアンケー
ト結果や,質疑応答やパネルディスカッションの様子から判断すると,参加者が多いか少
ないかと,参加者に満足してもらったかどうか,すなわち,研究集会が充実したものであ
ったかどうかは,必ずしも一致しているわけではない。しかし,研究集会は学内外の教育
問題の情報交換,教官の意識改革,種々の啓蒙活動に重要な目的がおかれていることから
すると,今後とも参加者,とくに学内の参加者が増加するための方策について考えていか
ねばならないであろう。
なお,研究会の内容は,テープ起こしをした原稿を講演者に校正してもらった上で,セ
ンターが毎年発行している紀要「大学教育研究」に収録している。
(4)研究紀要
大学教育研究センターでは,センターが設立された年度から,毎年3月に大学教育研究
センター紀要として「大学教育研究(Kobe Journal of Higher Education)」(第1号の
みは「大学教育研究年報」のタイトルで発行された)を刊行していて,平成13年3月で
第9号を数える。各号の目次は資料として巻末にまとめてある。「大学教育研究」の発行
は,研究部専任教官が中心となって進めていて,原稿依頼,原稿収集,ワープロによる版
下の作成,校正等,全員が協力して,集中的に作業している。また,大学教育研究センタ
ー長,同副センター長及び研究部専任教官からなる編集委員会によるレフェリー制をとっ
ている(編集委員長は研究部主任)。「大学教育研究」は,学内の大学教育研究センター
運営委員会委員,研究部研究員,教科集団所属教官などはもとより,学外の高等教育機関,
高等教育研究者などへ計350部を配布している。
「大学教育研究」に掲載される原稿は,以下のジャンルに属するものである。
@ 論文:高等教育に関する論文
A 翻訳:高等教育に関する文献の翻訳(翻訳者が原著者及び出版社の了解を得たも
のに限る。)
B 書評:高等教育に関する文献の書評
C 講演会及び研究集会の記録:センターが主催した講演会及び研究集会の記録
D センター研究部の研究活動についての報告
E センター研究部及び事業部の彙報
F その他:編集委員会が企画し,依頼したもの
これまでに刊行された「大学教育研究」1〜9号には,専任教官により19編,学内か
ら13編,学外から4編,の合計36編の論文が掲載された。
また,「大学教育研究」の別冊が不定期に刊行されていて,これまでに1号〜10号が
発行された。「大学教育研究」別冊に掲載される原稿は,以下のジャンルに属するもので
ある。
@ センター研究部のプロジェクトの報告
A 大学教育及び大学院教育の改革に関する研究報告
B センター研究部で収集している諸資料類の目録
なお,「大学教育研究」及び別冊に原稿を掲載できる者は,以下に掲げる者となってい
る。
@ センター長,副センター長及びセンターの専任教官
A センターの研究部研究員
B 教科集団に所属する神戸大学専任教官
C @〜Bの研究協力者で,編集委員会が認めた者
これまでに刊行されたのは,以下の内容である。
別冊1号:麻生 誠・山内乾史・冠野 文〔編〕「現代日本におけるエリート形成
と高等教育―研究資料集―」, 367pp., 1995.
2号:大学教育研究センター研究部〔編〕「特集:神戸大学における教育シス
テム改革への提言」,20pp.,1996.
3号:波田重煕〔編〕「学士課程と大学院課程のカリキュラムの接続に関する
基礎的研究」,53pp.,1997.
4号:米谷 淳「SCS授業実施と評価」,38pp.,1998.
5号:大学教育研究センター〔編〕「大学教育研究センター所蔵図書・資料目
録―1992年10月〜1997年12月―」,113pp.,
1998.
6号:米谷 淳『特別講義「自己と他者」の授業記録―学生の感想文をもとに』,
31pp.,1999.
7号:大学教育研究センター〔編〕「シンポジウム・21世紀に向けての学部
(学士課程)教育の再構築―4大学の改革方策―」,68pp.,
2000.
8号:米谷 淳・西垣悦代『特別講義「自己と他者」の授業記録―「人間関係
入門」「女性のライフコース」の講義録―』,38pp.,2000.
9号:神戸大学創立90周年記念事業国際シンポジウム「日本と中国の高等教
育に関する国際比較研究」報告書,80pp.,2001.
10号:米谷 淳『特別講義「自己と他者」の授業記録ー学生の気づきと学びー』
49pp.,2001.
今後とも大学教育研究センターの顔である紀要の内容を充実することに力を注いでいか
なければならない。そのために,研究部専任教官を中心に,調査・研究活動の成果を積極
的に公表する努力をすることは勿論重要であるが,さらに,投稿者の輪が拡がれば掲載論
文の内容がバラエティーに富むことになる。平成12年10月から神戸大学運営諮問会議
が活動を開始したが,運営諮問会議のメンバー,また,今後は大学全体あるいは各部局へ
の外部評価の機会も増えるとみられ,それらに関わった人達等にも「大学教育研究」への
積極的な投稿を依頼することが考えられる。
(5)他大学等との共同研究
平成3年7月に大学設置基準が大綱化され,それを機に全国の大学の教養部が廃止され
たのに伴って,教養教育の企画・運営に携わる新たな部局が必要となったこともあって,
それまで広島大学と筑波大学にしかなかった高等教育の研究機関が,全国の国立大学に誕
生するようなった。それに伴って,それらの機関が固有の活動を続けるばかりでなく,相
互の協力体制を整備することによって,研究交流や情報交換を密接に行う必要性が次第に
高まってきた。そこで,高等教育に関する連絡調整,共同研究,各種知見の交換,人事交
流等を目的とした連携を深めることを目的として,平成8年4月に神戸大学を含む全国の
国立大学の11の大学教育研究センター等が集まって「全国大学教育研究センター等協議
会」が発足した。平成12年3月現在で,以下の12大学の研究機関が協議会に加盟して
いる(平成13年にはさらに増えて,17大学となる見込み)。
北海道大学高等教育機能開発総合センター
東北大学大学教育研究センター
筑波大学大学研究センター
東京大学大学総合教育研究センター
新潟大学大学教育開発研究センター
信州大学教育システム研究開発センター
名古屋大学高等教育研究センター
京都大学高等教育教授システム開発センター
神戸大学大学教育研究センター
鳥取大学大学教育センター
広島大学大学教育研究センター
九州大学大学教育研究センター
協議会は毎年1回3月に定期的に集まって(これまでは広島大学大学教育研究センター),
総会と種々の研究会を開催している。全国大学教育研究センター等協議会で現在進められ
ている主要な共同研究は,平成10年度に採択された科学研究費による基盤研究(B)
「大学設置基準の大綱化に伴う学士課程カリキュラムの変容と効果に関する総合的研究」
(研究代表者:広島大学大学教育研究センター有本 章教授)である。3年の研究期間な
ので,平成12年度は最終年度となるが,現在21大学の62学部で実施された「教員か
らみた学士課程カリキュラムに対する意識調査」,「学生から見た大学教育に対する意識
調査」の集計・分析が進行中である。また,この総合研究では,「外国のカリキュラム研
究」や「教養教育担当組織とカリキュラムの再編成過程の評価に関する研究」が進められ
ており,神戸大学も川嶋太津夫教授を中心に参加している。
また,東北大学,九州大学及び神戸大学の3大学の大学教育研究センターでは,平成6
年度から,毎年1回各センター長及び副センター長が集まって,情報交換を主たる目的と
する「3大学大学教育研究センター長会議」を開催してきた。平成10年度からは,さら
に,北海道大学高等教育機能開発総合センターが加わって,「4大学センター研究会」と
して継続開催されている。神戸大学が当番大学であった平成11年度には,4大学が集ま
ったのを機会に,後述する(8)「FD活動」の項で示すように,シンポジウム「21世
紀に向けての学部(学士課程)教育の再構築―4大学の改革方策―」を開催した。また,
4大学センター研究会では,「何のためのFDか?―英米との比較から―」と題する講演
を山内乾史助教授が行った。
さらに,神戸大学には平成8年10月にSCS(Space Colaboration System)が導入さ
れた。それを機に,SCSを利用して他大学と大学改革や大学教育に関する話題提供と情
報交換を行うことを目的とした合同研究会がスタートした。始めは東北大学大学教育研究
センター,九州大学大学教育研究センター及び北海道大学高等教育機能開発総合センター
と神戸大学大学教育研究センターとを衛星回線で結んで始められた試みが,以下に示すよ
うに今では参加大学の輪が拡がる傾向にある。
平成8年10月17日 北海道大学高等教育機能開発総合センターとSCS合同研究会
「カリキュラム改革の現状と課題」(話題提供:神戸大学教授 波田 重煕)
平成8年11月 5日 九州大学大学教育研究センターとSCS合同研究会
「大学の教育改革の現状と課題」
平成8年12月 6日 東北大学大学教育研究センターとSCS合同研究会
「大学の教育改革と大学教育研究センター」
・4大学SCS合同研究会(北海道大学高等教育機能開発総合センター・東北大学大学
教育研究センター・九州大学大学教育研究センター・神戸大学大学教育研究
センター)
第l回(平成9年5月20日)「教育業績評価について」
話題提供者:北海道大学教授 阿部 和厚
第2回(平成9年6月17日)「授業科目の創造」
話題提供者;九州大学助教授 長野 剛
第3回(平成9年7月15日)「全学教育体制における理科実験」
話題提供者:東北大学教授 江幡 武・斎藤 紘一・内田和喜男・綿村 哲・
東北大学助教授 前田 和茂
・4大学SCSシンポジウム「全学共通教育改革の現状と課題」(北海道大学・名古屋
大学・大阪大学・神戸大学)
第1回(平成9年5月27日)
「ファカルティ・ディベロップメントをどう促すか?」
レポーター :神戸大学助教授 川嶋 太津夫
コメンテーター:名古屋大学教授 馬越 徹
第2回(平成9年6月 2日)「基礎セミナーの狙いは何か?」
レポーター :名古屋大学教授 長田 雅喜
コメンテーター:大阪大学教授 森本 益之
第3回(平成9年6月10日)「授業評価はどこまで可能か?」
レポーター :神戸大学助教授 米谷 淳・山内 乾史
コメンテーター:北海道大学教授 阿部 和厚
第4回(平成9年6月16日)「外国語教育は改革されたか?」
レポーター :大阪大学教授 仙葉 豊・玉井 俊紀・溝辺 敬一
コメンテーター:北海道大学教授 筑和 正格
第5回(平成9年6月30日)「基本主題科目はどこへ行くか?」
レポーター :名古屋大学教授 貝沼 洵
コメンテーター:神戸大学助教授 山内 乾史
第6回(平成9年7月29日)「クラス担任の修学指導は有効か?」
レポーター:大阪大学教授 井畑 敏一
コメンテーター:名古屋大学教授 竹内 信仁
(なお,第6回は通信衛星回線の都合により7月29日に延期して実施された)
第7回(平成9年7月22日)「教養コース制は何を目指すか?」
レポーター:北海道大学教授 小笠原 正明
コメンテーター:大阪大学教授 大野 健
第8回(平成9年9月9日)「コア・カリキュラムをいかに設定するか?」
レポーター:北海道大学教授 阿部 和厚・小笠原 正明
コメンテーター:神戸大学教授 瀧上 凱令
〔なお,このSCSシンポジウム「全学共通教育改革の現状と課題」の記録は印
刷物として名古屋大学より出版されている(86ページ)〕
・5大学センターSCS研究会(北海道大学高等教育機能開発総合センター・東北大学
大学教育研究センター・京都大学高等教育教授システム開発センター
・九州大学大学教育研究センター・神戸大学大学教育研究センター)
第1回(平成10年10月13日) 報告:東北大学
第2回(平成10年11月10日) 報告:神戸大学
第3回(平成10年11月24日) 報告:北海道大学
第4回(平成10年12月 8日) 報告:九州大学
第5回(平成10年12月15日) 報告:京都大学
・5大学センターSCS合同研究会〔北海道大学高等教育機能開発総合センター・東北
大学大学教育研究センター,京都大学高等教育教授システム開発セン
ター・山口大学(オブザーバー)・九州大学大学教育研究センター・
神戸大学大学教育研究センター〕
研究打ち合わせ(平成11年10月12日)
第1回(平成11年11月 9日)「学部教育と大学院教育序論」報告:北海道大学
第2回(平成11年11月30日)「大学における研究・教育と社会への貢献―東北
大学大学院工学研究科を例として―」報告:東北大学
第3回(平成11年12月 7日)「学部教育と大学院教育の接続」報告:神戸大学
第4回(平成11年12月21日)「工学教育における研究の位置づけについて―機
械工学を例として―」報告:京都大学
第5回(平成12年 1月11日)「学士課程,修士課程,博士課程教育:総合討論・
まとめ・展望」
・4大学センターSCS合同研究会「高校教育とのアーティキュレイション」(北海道
大学高等教育機能開発総合センター・東北大学大学教育研究センター・九州大学大
学教育研究センター・神戸大学大学教育研究センター)
第1回(平成12年10月24日)「高校教育との連携―学生の論理能力―」報告:
九州大学教授 押川元重
第2回(平成12年11月14日)「国立大学のAO入試―高校・大学連携への貢献
を考える」報告:北海道大学教授 山岸みどり
第3回(平成12年11月28日)「地方国立大学におけるAO入試の可能性〜東北
大学の事例からの検討〜報告:東北大学教授 鈴木敏明
第4回(平成12年12月5日)「高校教育との連携―入学者選抜方法の抜本的改革
―」報告:神戸大学教授 波田重煕
次に,研究部専任教官の他大学等との高等教育関係の共同研究の状況を示すと,以下の
通りである。波田重煕教授は,平成11年度及び12年度の北海道大学総合講義「科学の
発展と地球環境:私たちの課題」に協力した。この講義は,教養特別講義プログラム推進
経費によって実施されたもので,双方向授業や合宿授業を加えるなど新しい試みがなされ
た。川嶋太津夫教授は,平成8年4月から広島大学大学教育研究センター客員研究員とし
て活動している。
米谷淳助教授は,@放送教育開発センター「高等教育における教授システム及びファカ
ルティ・ディベロップメントに関する総合的研究」〔平成8年度プロジェクト(主査:佐
賀啓男教授)〕に共同研究員(公募)として参加,A放送教育開発センター「教員のメデ
ィア活用能力を向上させるための研修プログラムの研究開発」プロジェクト(主査 佐賀
啓男教授)(平成9年度より4年計画のプロジェクト)に平成9年度より研究協力者とし
て参加,B京都大学高等教育教授システム開発センター「公開実験授業」に平成8年度よ
り参加,平成10年度より研究協力者,などの活動を行っている。
(6)国際交流活動
中国地質大学(武漢)の劉育燕副教授が平成4年11月10日,平成5年4月23日,
及び平成9年4月21日に大学教育研究センターを訪問して3回にわたって「中国の大学
について」講演した。これを受けて,平成5年10月17日から25日までの9日間にわ
たって,後藤博禰大学教育研究センター長(当時)と瀧上凱令同副センター長(当時)は
中国地質大学(武漢)の劉育燕副教授の協力のもとに,中国地質大学(北京),中国地質
大学(武漢),湖北大学,湖北廣播電視大学の4大学と中国地質教育協会を訪問し交流を
深めた。その詳細は「大学教育研究」第2号に「中国大学事情―最近の調査から―」(瀧
上凱令・後藤博禰)として掲載されている。
また,神戸大学創立九十周年記念事業による「国際交流・地域交流にかかわる活動の助
成」の補助金を得て,「日本と中国の高等教育改革に関する国際比較研究」と題する国際
交流研究会が,平成12年10月23日に神戸大学大学院国際協力研究科大会議室で開催
された(実施責任者は土屋基規大学教育研究センター長)。21世紀に向けて,世界各国
で進んでいる高等教育を含む教育改革の現状を国際的な視野から考えるために,中国の高
等教育改革との比較研究を目的として開催された研究会である。当日の講演内容は,以下
の通りである。
張 日斤(蘇州中学校副校長) 「高等学校改革と高等教育への接続の間題」
波田重煕(神戸大学大学教育研究センター副センター長・教授)「高等学校改革と高
等教育への接続の間題」
江 崇廓(清華大学教育研究所長・教授)「大学改革の現状と課題」
李 守福(北京師範大学国際比較教育研究所長・教授)「大学改革の現伏と課題」
土屋基規(神戸大学大学教育研究センター長・教授)「大学改革の現状と課題」
陳 永明(華東師範大学教育科学学院副院長・教授)「大学における教員養成」
船寄俊雄(神戸大学発達科学部助教授)「大学における教員養成」
当日の参加者は学外者を含めて25名であった。なお,神戸大学大学院総合人間科学研
究科の中国人留学生が通訳として活躍した。その詳細は「大学教育研究」別冊第9号に『
神戸大学創立90周年記念事業国際シンポジウム「日本と中国の高等教育に関する国際比
較研究」報告書』として掲載されている。
川嶋太津夫教授は,神戸大学創立九十周年記念事業による「国際交流・地域交流にかか
わる活動の助成」の補助金を得て,平成12年3月19日から26日までオーストラリア
のアデレード大学に出張し,アデレード大学における留学生受け入れの現状を調査すると
ともに,かねてより交流のあった同大学の学習スキルセンターのジーガー所長と,大学生
の学習スタイルに関する国際比較研究プロジェクトの今後の進め方について打ち合わせを
行った。
さらに,高等教育そのものの国際交流活動からは少し離れるが,波田重煕教授は平成3
年2月以来,ユネスコが国際地質学連合と共同で実施している「国際地質対比計画(IG
CP)」のプロジェクトリーダー(IGCP Project 411)を務めている。このプロジェクト
は地球科学の学術的研究を進め,資源や地球環境問題に寄与すると共に,参加している東
南アジアの国々のような発展途上国の研究レベルの向上や教育問題に寄与することを重要
な活動目標としていて,ユネスコからはその活動は高く評価されている。
(7)海外教育調査
センター研究部専任教官は,これまで科学研究補助金による海外学術調査を毎年のよう
に申請してきたが,高等教育に関してはこれまで補助金を得ることはできなかった。幸い
昨年,学長裁量経費によって,波田重煕教授,川嶋太津夫教授,山内乾史助教授の3人の
専任教官が海外の調査に出かける機会を与えられた。さらに平成12年度,米谷淳助教授
が同じく学長裁量経費によって海外調査に出かけた。波田重煕教授は平井孝行国際文化学
部事務長と共に,アメリカの大学において入学者の選抜を一手に担っているアドミッショ
ンズ・オフィスを訪問し,そのシステムの実状を調査した。日本の国立大学でも東北大,
筑波大,九州大などがアドミッションズ・オフィス入試を昨年から導入するなど,このと
ころアドミッションズ・オフィスに対する関心が急激に高まっていることを視野に入れて
の海外調査である(平成12年度にはさらに北海道大学でも導入された)。2月29日に
日本を出発し3月15日に帰国するまでの間に(平井は3月8日に帰国),ボストンカレ
ッジ,バブソンカレッジ(以上マサチューセッツ州),ニューヨーク大学,フォーダム大
学,ニューヨーク市立大学ブルックリン校,コロンビア大学(資料のみ)(以上ニューヨ
ーク州),メリーランド州立大学,ノースキャロライナ州立大学を訪れてアドミッション
ズ・オフィス関係者にインタビューをすると共に,ハーバード大学,MIT,ウェルズリ
ーカレッジ(女子大),ロックフェラー大学などを見学した。訪問調査の目的は,アメリ
カの大学のアドミッションズ・オフィスの実状をつぶさに見て回り,神戸大学における入
試改革の今後の展開のための基礎資料を収集することであった。前もって11項目の質問
リストを送付しておいたが,その主要な内容は,・アドミッションズ・オフィスの組織と
活動,・入学者選抜で重視している理念,・調査書を高校のレベルに応じて調整するのか,
・情報公開と苦情処理・今後の課題,などであった。
川嶋太津夫教授,山内乾史助教授は,3月1日から13日にかけて,アメリカ合衆国全
米大学図書館協会,シカゴ大学,ノースウェスタン大学,コロンビア大学,ラトガース大
学,ジョージ・ワシントン大学,メリーランド大学を訪間し,教養教育を支える重要なイ
ンフラストラクチャーである学習図書館の実態について調査した。具体的には,学習図書
館の設置の目的,具体的な選書の過程,学生に対応する図書館員のサービス,負担や予算
の額と獲得方法など多面的に聞き取り調査を行った。
米谷淳助教授は平成12年9月27日〜10月2日,北欧のストックホルム大学図書館
,エーテボリ大学図書館,トゥルク大学図書館を視察し,大学における学生の学習支援の
ための施設設備の実態と学生サービス状況に関して調査を行った。
(8)FD活動
大学教育研究センターでは,毎年1回開催する研究集会の他にも,FD活動の一環とし
て毎年可能なかぎり学外講師を招いて研究会や講演会を開催し,学内の教官に参加を呼び
かけている。これまでに以下のような研究会及び講演会を開催した。
平成 5年 1月22日 講演会「大学に期待するもの」
講師:毎日新聞編集委員 中村 龍兵
平成 6年 1月28日 研究会「大学改革後の諸問題について」
講師:東北大学大学教育研究センター長 渡部 治雄,
千葉大学教養部長 河西 宏祐
平成 6年 2月10日 研究会「大学教育研究センターの運営及び研究のあり方について」
講師:名古屋大学教授 馬越 徹
平成 6年 2月17日 研究会「イギリスのUGC最終勧告の今日的意義」
講師:椙山女学園大学助教授 丸山 文裕
研究会「フランスの高等教育システム」
講師:椙山女学園大学助教授 向井一夫
平成 6年 3月7日 研究会「一般教育の在り方について―『教養課程教育の改善に関す
る実情調査』とその後の改革の動向―」
講師:北海道大学助教授 坂井 昭宏
平成 6年 3月25日 研究会「大学院における教育カリキュラムの日米比較研究」
講師:茨城大学助教授 佐藤 郁哉
(平成7年度に予定されていた研究会は,兵庫県南部地震のため中止された。)
平成 8年 2月29日 講演会「大学はいま,どこにいるか」
講師:東京大学大学院教育学研究科教授 金子 元久
平成 8年 3月 1日 研究会「東京大学調査室の活動状況について」
講師:東京大学調査室助手 米澤 彰純
研究会「筑波大学大学研究センターの活動状況について」
講師:筑波大学大学研究センター助手 阿曽沼 明裕
平成 8年 3月12日 研究会「単位制度について」
講師:学位授与機構教授 舘 昭
平成 8年11月12日 SCS利用者講習会
講師:神戸大学大学教育研究センター助教授 米谷 淳
平成 9年 1月23日 研究会「北海道大学における教育システム改革について」
講師:北海道大学前副学長/高等教育機能開発総合センター・前センター長
中村 耕二
平成 9年 2月27日 研究会「SCSによる授業の現状と問題点について」
講師:放送教育開発センター教授 近藤 喜美夫
放送教育開発センター助手 田中 健二
平成 9年 3月 5日 講演会「放送大学における任期制について」
講師:放送大学助教授 岩永 雅也
平成 9年 3月 7日 研究会「新潟大学大学教育研究開発センターの活動状況について」
講師:新潟大学大学教育研究開発センター長 吉村 尚久
平成 9年 3月11日 講演会「入試の多様化と志願者の動向」
講師:大学入試センター助手 岩田 弘三
平成 9年 3月13日 講演会「新しい就職指導のシステムを求めて―就職協定の廃止を
受けて―」
講師:九州大学教育学部助教授 吉本 圭一
平成 9年 3月27日 研究会「SCSを用いた授業の運営について」
講師:北海道大学高等教育機能開発総合センター助教授 細川 敏幸
九州大学大学教育研究センター助教授 長野 剛
平成 9年 3月28日 研究会「高知大学における教育システム改革について」
講師:高知大学理学部教授 吉倉 紳一
平成 9年 7月 7日 講演会「マルチバーシティの葛藤―カリフォルニア大学バークレー
校の学士課程教育とFD活動について―」
講師:メディア教育開発センター助教授 吉田 文
平成 9年 8月 8日 研究会「大学における授業研究法について」
講師:神戸大学発達科学部人間科学研究センター助教授 浅田 匡
平成 9年 9月 2日 SCS利用者講習会
講師:神戸大学大学教育研究センター助教授 米谷 淳
平成 9年10月28日 研究会「エーテボリ大学における教育について」
講師:エーテボリ大学客員教授 里深 文彦
平成10年 3月16日 研究会「教養部の改組と外国語教育について」
講師:鹿児島大学法文学部教授 小谷 裕幸
平成10年 3月19日 研究会「学生による授業評価について」
講師:信州大学教育システム研究開発センター外国人教師ルーク・メスケンス
平成10年 3月23日 研究会「中国語教育の現状と課題について」
講師:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助教授 木村 英樹
研究会「外国語教育の現状について」
講師:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助教授 山囲 広昭
平成10年 3月30日 研究会「学生による授業評価について」
講師:北海道大学高等教育教授システム開発センター教授 阿部 和厚
平成10年 8月24日 研究会「国立大学財政と市場/組織」
講師:筑波大学大学研究センター助手 阿曽沼 明裕
平成11年 3月19日 研究会「東北大学における外国語教育の現状と課題」
講師;東北大学言語文化部教授 藤原 五雄・大友 義勝
平成11年 3月29日 研究会「地球環境問題と地学教育」
講師:東京大学大学院総合文化研究科助教授 磯崎 行雄
平成11年 7月28日 シンポジウム「21世紀に向けての学部(学士課程)教育の再
構築―4大学の改革方策―」
講師:北海道大学高等教育機能開発総合センター
高等教育開発研究部長・医学部教授 阿部 和厚
東北大学大学教育研究センター長・工学研究科教授 星官 望
九州大学大学教育研究センター助教授 長野 剛
神戸大学副学長 谷 武幸
平成12年 2月 4日 研究会「情報教育について」
講師:藤本電器株式会社情報開発部主事 金子 光広
平成12年 2月 5日 研究会「授業評価について」
講師:椙山女学園大学人間関係学部教授 丸山文裕
平成12年 2月15〜16日 研究会「大学における教育評価について」
講師:財団法人大学基準協会事務局員 早田 幸政
平成12年 2月18日 研究会「学生調査について」
講師:武蔵野女子大学現代社会学部助教授 岩田 弘三
平成12年 2月24日 研究会「大学教育の現状と課題一大学における教師教育を中心
に一」
講師:明治大学文学部助教授 高野 和子
平成12年7月3日 講演会「CALLによる英語教育の可能性」
講師:千葉大学教育学部・大学院自然科学研究科教授 竹蓋 幸生
平成13年2月20日 講演会「大学における教養教育の創造」
講師:桜美林大学大学院国際学研究科教授・日本教育学会会長 寺崎 昌男
平成13年3月6日 講演会「北海道大学における教養教育ーコア・カリキュラムにつ
いてー」
講師:北海道大学高等教育機能開発総合センター教授 小笠原正明
AO入試の現状と課題」
講師:北海道大学高等教育機能開発総合センター教授 山岸みどり
2 事業部
(1)事業部の組織と活動
平成4年10月に神戸大学教養部が廃止され,大学教育研究センターが設置されたのに
伴って,研究部と共に設置されたのが事業部である。事業部では,全学共通授業科目の新
たな責任体制の確立を目指して,全学共通授業科目に関わる教育について実際の企画・運
営(調整・実施)に当たることが中心的な役割と見なされた。
事業部は,全学共通授業科目に関する次の事項を業務とする。
@ 授業料目の設定に関すること
A 教育内容の調整に関すること
B 授業担当教官の認定に関すること
C 時間割編成(教室の配当及び授業クラス編成を含む。)に関すること
D 期末試験に関すること
E その他授業の実施に関し必要なこと
これを実施するための審議機関として,「全学共通授業科目実施委員会」が置かれた。
実施委員会は,次の各号に掲げる者をもって構成し,委員長は副センター長を充てること
として,スタートした。
@ 副センター長
A 研究部門の主任
B 各学部がら選任された教官各1名(合計11名)
C 各教科集団から選任された教官(合計19名)
それまでは教養部が全面的な責任を担って進められてきた一般教育が,教養部の廃止に
よって授業担当責任を全学に及ぼすこととなった結果,とくにそのスタート時には,その
円滑な運営を妨げる種々の困難な問題が山積していた。その点で,全学共通授業科目実施
委員会が全学共通授業科目の実施・運営が軌道に乗るために果たした役割は計り知れない
ものがある。しかし,大学教育研究センターの最高議決機関である運営委員会には,全学
共通授業科目の実施に直接携わっている教科集団の代表が入っていなかったことから,実
施委員会と運営委員会の権限の及ぶ範囲を巡って見解が分かれ,実施委員会の運営がしば
しば重大な困難に直面することがあった。そこで,神戸大学の教育システム全体の見直し
をはかることを目的として平成6年6月に発足した「神戸大学教育システム検討委員会」
〔委員長は小林哲夫副学長(当時)〕においても,実施委員会と運営委員会の関係につい
ての議論がなされた。平成8年12月に提出された「神戸大学の一般教育および専門教育
のシステムに関わる当面の諸問題について(答申)」の中の,「教育の実施に関する組織
体制について」で,その点に関して次のような結論が出された。
「大学教育研究センターにおいて運営委員会と実施委員会がそれぞれ別個に審議を行う
という現在のあり方は,学部と教科集団との意思疎通の妨げとなっていることが多いため
,委員会は運営委員会の一つのみとし,その運営委員会には,現在の運営委員会の構成員
以外に,教科集団の代表を加えるものとする。この場合に,現在の13の教科集団の代表
者がすべて入るとすれば,運営委員会の構成がアンバランスとなるので,人文科学系,社
会科学系,自然科学系,外国語,健康・スポーツ科学,数学,情報科学の各グループに分
けて,そのグループ別代表者各1名(外国語については,既修外国語と未修外国語から各
l名)を運営委員会の構成員に含めるものとする。
ただし,その代表者が運営委員会の構成員とならない教科集団に直接かかわる重要な問
題が審議される場合には,運営委員会の中に小委員会を設け,当該教科集団の意見を聴取
するものとする。」
これを受けて運営委員会で審議が重ねられた結果, (1)システム検討委員会の答申に沿
って「運営委員会」と「実施委員会」の組織の一元化を図ること,(2)実施委員会廃止後,
実施委員会が行っていた「審議」の部分は運営委員会へ移行することになるが,「企画」,
「実施」に関する業務は依然として事業部に残ることになるため,事業部組織の整備を図
り,事業部に新たに,「専門部会」を設けることとなった。専門部会は,実施委員会に設
けられていた小委員会の中で,稼働中の5つの委員会の名称を変更し,検討部会として設
置することが平成9年9月に決定された。平成9年11月の部局長会議,評議会で規則改
正が承認されたことによって,平成4年10月にスタートした実施委員会は,平成9年11
月をもってその役割を終了した。
したがって,現在の事業部は,
@ 事業部主任
A 運営委員会の委員
B 教科集団に所属する教官
C その他運営委員会が必要と認めた者
で構成されると定められている(神戸大学大学教育研究センター研究部及び事業部規程:
平成9年11月27日施行)。事業部主任はセンター長が兼任しており,残りのメンバー
は事業部専門部会委員に選ばれた運営委員会あるいは教科集団に所属する教官である。し
たがって,事業部は実体としてはセンター長のみということになる。事業部が取り扱うの
は全学共通授業科目の企画・実施に関わる教務事項が多いが,平成12年9月から全学の
教務事項に関する協議や調整を目的に神戸大学教務委員会が組織され,教務関係の事務機
構の整理・統合も検討されている。今後はこれらに委員会や組織との密接な連携が重要と
なってくるであろう。
(2)事業部専門部会の活動
大学教育研究センター事業部には,その発足当時から以下の5つの専門部会が置かれて
いた。
その委員は,実施委員会が置かれていた平成9年11月までは実施委員会委員より,ま
た,その後は運営委員会委員より,一定のやり方で選出されている。
@ 非常勤講師配分検討部会
全学共通授業科目の授業の実施に係る非常勤講師の教科別配分について,企画,立
案する。
A 障害学生部会
全学共通授業科目を履修する障害学生に関する諸事項を調査し,必要な措置等につ
いて,企画,立案又は実施する。
B LL教室運営部会
全学共通授業科目の授業の実施に係るLL教室の使用調整,物品調達等運営上必要
な諸事項について,企画,立案又は実施する。
C 情報処理教室運営部会
全学共通授業科目の授業の実施に係る情報処理教室の使用調整,物品調達等運営上
必要な諸事項について,企画,立案又は実施する。
D 学生用図書選書部会
全学共通授業科目を履修する学生の教養を高め又は学習効果を向上させるために国
際・教養系図書室に設置する図書について,選書する。
(3)通信衛星(SCS)の活用
神戸大学は,平成8年10月より文部科学省が推進するスペース・コラボレーション・
システム(SCS)事業(衛星通信大学間ネットワーク構築事業)に参加している。通信
衛星との通信を行う地上局(VSAT局)は2局(神戸1,神戸2)あり,神戸1は大学
教育研究センターに,神戸2は医学部に設置されている。全学のSCSに関わる事項は,
神戸大学SCS事業実施委員会で検討・決定されている。SCSを用いた遠隔授業の本格
的運用をめざして,平成8年度より鶴甲キャンパス(神戸1)と楠キャンパス(神戸2)
を通信衛星で結んで行う遠隔授業が毎年実施されている。これは大学教育研究センターの
全学共通授業科目のひとつである「総合教養科目V」(2単位)の授業であり,医学部の
SCS教室から,医学部教官が講義を行い,その映像・音声を通信衛星を中継して,10
Km以上離れた大学教育研究センターのVSAT局で受け取り,D300教室でその映像
・音声を学生に視聴させる。同時に,受講している学生の様子を通信衛星を介して医学部
に送り,教官が監督するというものである。
表1 SCS授業の登録者数(カッコ内は医学部以外)
平成 8年度 78名
平成 9年度 157名
平成10年度 36名
平成11年度 125名(30名)
平成12年度 136名(41名)
毎年12名の医学部(医学科,保健学科)教官が1回ずつの講義を担当し,全12回の
授業が実施されている。なお,授業開始に先立ち,医学部以外の受講希望者を集めてガイ
ダンスを行い,SCSによる遠隔授業であり,対面授業の形式を確保する上で希望者が一
定数(150名程度)を超えた場合には受講制限を行うことを説明している。なお,現在
まで受講制限は行われていない。SCSシステムの運用は平成12年度で5年目となるが
,大きな故障はこれまで4回あった。
以下にその状況と対応についてまとめる。
・ 平成8年度の授業開始前に,医学部で担当教官を招いて行ったSCSのガイダンス
時に,システムが作動しなくなった。これはすぐに修理され,翌日にSCSを用いた
ガイダンスができ,授業開始には間にあった。
・ 平成9年度に,D300教室で映像を映していたプロジェクターが故障し,映像に
赤い影がかかって見にくくなったものである。これは,本体の交換により解消するこ
とができたが,交換までの数回にわたって受講生は,見にくい映像で我慢することと
なった。
・ 平成12年度の最初の授業で,システム(神戸2)の不調により送信不能となり,
授業ができなかった。この回の授業は後日VTRで学生に視聴させた。故障は翌週ま
でに直った。
・ 平成12年度の4回目の授業において,その日の昼にあった落雷による影響でシス
テム(神戸1)が不調(SATELITE OFFLINE)となり,授業ができなくなった。そのた
め,この回は第1回の授業をVTRで放映した。不通となったシステムは翌週の授業
開始時までに復旧できた。
SCSによる遠隔授業は,毎回,出席した学生に授業評価をさせている。平成8年度は
映像・音声の受信状態や教室についての5項目と,他の授業と満足度を比較させた1項目
のあわせて6項目を5段階で評定させた。平成9年度以降は,さらに,授業のテーマ,内
容,方法について評価させる8項目を加えた。
平成8年度と平成9年度の学生評価を集計したところ,全体評価は他の授業と比較して
遜色がないことがわかった。しかしながら,スライド提示の仕方や教室の設備,とくに,
音声の聞き取りにくさ等が問題であることがわかった。この集計結果は『大学教育研究
別冊3号』に掲載され,担当教官にも配布された。
また,学生評価で問題のあったスライドの見にくさ,音声の聞き取りにくさを改善する
ために,平成10年度に,D300教室のスピーカシステムを更新するとともに,教室に
大型プロジェクターテレビ1台を設置した。
上記の措置によりカラースライドは見やすくなり,聞き取り易さもかなり改善されたが,
まだ未解決の問題もいくつか残されている。
@ 映像を映すのがプロジェクター方式であるため,どうしても部屋を暗くしなければ
ならないことである。一方,学生がノートを取れるように,また,学生の受講風景を
医学部に送信できるように,ある程度部屋を明るくしなければならない。そのため,
相変わらずカラーの精細なスライドが見にくいという不満が出されている。この解決
には,リアスクリーン方式の部屋にするとか,大型テレビを随所に設置したテレビ教
室にする等の方法があるが,どれも実現は容易ではない。
A SCS授業は,準備から片づけまで手間がかかる。これは現在TAの任用によって
対応しているが,毎回出し入れすることは精密機器にとってあまりよいことではなく,
故障の原因ともなりやすいので,今後何らかの対応が必要となるだろう。
B システムがさまざまな要因で突然不調(不通)となることへの対応を,もっと迅速
にできるようにすべきである。とくに,平成12年度に2度も授業ができなかったこ
とは,不慮の出来事とはいえ,学生に「こんな問題まで起こしながらSCSを用いて
授業をする必要があるか」という疑義を抱かせることになってしまったし,担当教官
にも戸惑いや不信感を抱かせた。
緊急時の対応のためにD300教室内にコードレス電話を設置するなど(平成9年
度)してきたが,今後さらなる検討と研究が必要であろう。
C D300教室に暖房設備(ヒーター)はあるものの,12月には全開にしても全く
暖まらない。
こうした環境で学生に授業を受けさせることは,SCS授業でなくても問題である。学
生評価の中で最も悪い点数がついたのが,教室設備,とくに,暖房システムであることを
鑑み,早急にこの問題の解決に取り組まなければならない。