教養教育に関する取組
 
(1)実施体制
 本学では、平成5年度からの「全学共通授業科目」の実施に際し、新しい体制を確立した。
 すなわち,全学共通授業科目を実施する上での新たな責任体制の確立と、学部段階及び大学院段階の教育全般の改善・充実を図るために不可欠とされる高等教育に関する基礎的研究及びカリキュラムの編成、教授内容・方法の研究開発、教育組織の点検・評価を行うことを目的として、大学教育研究センターを設置した。大学教育研究センターの管理運営及び全学共通授業科目の実施に必要な全ての事項は、各部局の代表と全学共通授業科目の実施に当たる教科集団の代表等で構成する大学教育研究センター運営委員会で審議することとしている。
 教養部の廃止に伴い、従来の教養部に所属していた一般教育担当教官は各学部等へ配置換したが、新たに全学共通授業科目を担当する教官による教科集団を組織した。教科集団は、全学共通授業科目に係る教育の実施に際し、その企画・調整・評価に当たる責任を担う組織であり、教育分野別に以下の教科集団を設置している。
 @人文科学 A社会科学 B数学 C物理学 
 D化学 E生物学 F地学 G図学 H自然科学史 I情報科学 J健康・スポーツ科学 
 K外国語第I(英語) L外国語第II(独語、仏語、中国語、ロシア語) M総合教養科目
 教科集団の任務等については、
(1) それぞれの専門に対応する全学共通授業科目を責任をもって担当する。
(2) 全学共通授業科目に係る担当教官の配分案を作成する。
と規定している。
 また、各教科集団は、次のいずれかに該当する教官で構成している。
(1) 教養部から各学部又は大学教育研究センターへ配置換となった教官
(2) 旧教養部の教官が所属することになった学部の教官であって、当該旧教養部の教官と専門(全学共通授業科目を担当するにふさわしいという意味での専門)が同じとみなされる教官
 さらに、各学部は教科集団に所属する教官が退職等により異動する場合においては、当該教官が担当している全学共通授業科目の担当計画を提示した上で、当該異動について大学教育研究センター運営委員会の承認を必要とした。
 大学教育研究センターでは、開設後10年目を迎えるに当たり、その組織活動と教育のあり方の見直しを進めることを目的として、平成12年度全学共通授業科目の学生による授業評価、平成12年度全学共通授業科目の担当教官による授業評価、及び、平成5年度から10年度の間に開講した全学共通授業科目の成績評価の分析、を実施した。
 学生による授業評価の項目は、@受講生の授業に対する態度(出席率、予習時間、受講態度)、A教員の授業行動や授業の内容(熱意、学生への接し方、教材の内容など)、B授業の効果(満足度、理解度など)などである。一方、教官による授業評価の項目は、@授業の計画・実施(授業計画へのシラバスの利用、休講回数など)、Aクラスサイズ、B学生に対する評価(出席状況、理解度、受講態度など)などである。アンケートの集計結果とその分析によって明らかとなった全学共通授業科目の課題は、平成13年5月に公表する大学教育研究センターの自己点検・評価報告書の中でまとめるとともに、教科集団の自己点検・評価の基礎データとして活用することにしている。一方、成績評価の分析では、その現状を把握するために6年間の成績評価データを収集・分析し、その結果を教科集団の自己点検・評価の参考資料として活用するとともに、全学共通授業科目の担当教官全員に、各個人の集計結果をフィードバックして授業改善に活用することにした。
 さらに、大学教育研究センターでは、設立当初から、毎年1回大学・高等教育に関する「研究集会」を開催し、学内ばかりでなく、全国の大学関係者に参加を呼びかけてきた。平成12年度までに計8回の研究集会を開催したが、そのテーマは、大学教育の改革・システム改善、入試改革、さらに、教官の資質の向上・開発等である。このように、研究集会と銘打っているが、それを広義のFD活動として位置づけている。その他にも、FD活動の一環として毎年可能な限り学外講師を招いて研究会を開催し、学内の教官に参加を呼びかけ、その開催回数は、大学教育研究センター発足以来これまでに35回を越える。また、大学教育研究センター紀要として「大学教育研究(Kobe Journal of Higher Education)」を発行し、高等教育研究に関する研究成果ばかりでなく、授業改善に繋がる調査・研究等も積極的に公表している。さらに、小規模ではあるが、教官相互の授業参観の実施や、少人数教育としての小集団形式の体験型の授業の試みなども実施しており、その成果は「大学教育研究別冊」にも公表している。
 
(2)教育課程の編成及び履修状況
 
 本学の教育課程のうち、教養教育に相当するものは、全学共通授業科目として大学教育研究センターが開講している科目である。
 全学共通授業科目は、以下の6つの区分により開講している。
(1) 教養原論
  教養教育は、諸科学・芸術の創造的な発展とその 全般的展望の中で学生が専攻する専門分野とそれ以外の分野との関係や、その位置づけについての理解を深めるとともに、幅広い視野から事象を総合的・学際的に捉えることによって、知的活動の基盤となる主体的・実証的に学ぶ態度を育成することを目標とする。
  本学における教養教育の根幹をなす教養原論は、総合大学の利点を活かして、多様な分野の教官が担 当することを基本としている。
  学生は、専門の分野の授業科目をそれぞれの学部で修得することになるので、教養教育の根幹としての教養原論は、学生の専攻分野以外の2分野を中心に、1〜3年次に選択必修科目として履修する。
  人文・社会・自然の各分野はそれぞれ3つの主題から構成され、さらに、それぞれが3〜4の授業科目によって構成している。
 @人文
「人間形成と文化」
 生物としてのヒトは、文化の修得を通じて人間になるといえるが、同時に人間は、自己の行動を規制する装置としての文化について反省をも行いうる存在である。「人間形成と文化」では、そうした原理的反省のあり方を、知識論、倫理的、あるいは論理的規範論、行動論、人間形成論といった観点から考察する。具体的には、「人間と世界」、「行為と規範」、「心と行動」、「発達と教育」の4授業科目がある。
「文学と芸術」
 文学・芸術を深く理解し味わうためには、それぞれの作品の背後にある文化や言語、歴史、伝統などについての知識を持つことが必要である。「文学と芸術」では、日本の文学・芸術のほか、中国や西洋など各文化圏における文学・芸術の形成と発展、特質について、歴史的、系統的、実証的に学ぶことを期す。同時に、学問的方法に裏打ちされた鑑賞のあり方を考究する。具体的には、「日本の言語文化」、「世界の文学」、「芸術の思想と表現」の3授業科目がある。
「歴史と社会」
 前近代社会から近代社会への歴史的移行、及び伝統と近代の構造的併存における特殊性と一般性を、日本、アジア、オセアニア、アメリカ、ヨーロッパなど諸地域の社会的個性に即して、政治、経済、社会、思想などの諸側面から検討する。この考察を通して、各民族、諸地域の歴史をたどりつつ、それぞれの社会の動態的側面と持続的・構造的側面を明らかにする。その際、一国史的把握を避け、可能な限り地域史的、さらには世界史的視点から探求する。具体的には、「伝統と社会変動」、「近代日本の政治と社会」、「近代アジアと日本」、「人の移動と世界史」の4授業科目がある。
 A社会
「人間と社会」
 人間の生活は、自然環境や地勢との関連で地域ごとに多様な偏差を見せている。また、固有の文化や社会構造の形成・変容の過程で、この多様性は拡大している。「人間と社会」では、人間の生活を、自然環境、文化、社会構造の相互作用という側面から多面的に検討していく。さらに、地域的視点を取り入れた比較により、人類文化の類似と差異、近代化と社会の関連を考察する。具体的には、「人間と環境」、「人間と文化」、「人間と社会集団」、「社会理論と思想」の4授業科目がある。
「現代社会と法・政治」
 現代社会の特質を、法と政治という視座から考察する。法的視座からは、規範的な法現象を社会現象の一種として捉え、その構造的分析や機能的分析を行う一方、具体的な判例分析を通して法的・規範的問題解決の方法を考察する。政治的視座からは、政治意識の変容、公共政策の形成・執行過程、中央−地方関係などについて動態分析を行う。それらの考察から、現代社会での法的視点・リーガルマインドを概観すると同時に、政治的紛争処理の本質について理解を深める。具体的には、「法と社会」、「法と国家」、「政治と社会」の3授業科目がある。
「現代社会と経済」
 現代社会を、産業社会、情報社会として捉え、歴史的考察を踏まえながら、その経済的側面について理論的・統計的に検討する。例えば、産業社会と経済発展、市場経済の機能と構造、財政・金融の仕組み、企業における情報処理などを取り扱うが、貿易摩擦、経済改革、環境問題などの経済における今日的課題にも言及する。具体的には「現代と経済」、「経済と社会」、「経済社会の発展」の3授業科目がある。
 B自然
「自然と環境」 
 自然科学や科学技術の高度に発達した現代社会においては、物質と環境についての正しい認識なくしては、我々を取り囲む自然環境の急激な変化に適切に対処することは困難である。「自然と環境」では、科学と社会、生物と環境、地球と環境及びエネルギーと環境等の関わりについて科学論的に論じ、自然と人間との共生のあり方について考える。これにより、人類の豊かな社会の構築に貢献することを図る。具体的には、「科学の発達と社会」、「環境と生物」、「地球と環境」、「自然とエネルギー」の4授業科目がある。
「自然の構造」
 高度に発達した現代物質社会において、文系・理系を問わず強く求められているのは、我々を取り巻く自然界の諸現象を総合的視野から深く認識し理解することである。「自然の構造」では、「素粒子と宇宙」、「物質の組み立て」、「分子の世界」、「生命の科学」の4授業科目を設定して、総合的視野から論じることにより、自然界の神秘に触れるとともに、宇宙や諸物質、あるいは生体の構造と機能について本質的理解を深める。
「数理の世界」
 数学あるいは数理は、様々な自然現象、社会現象を記述し、理解するための有効で普遍的な道具である。これを使いこなすにはそれなりの訓練が必要であるが、ここではテクニックの習得には深入りせずに、数理の世界とはいかなるものであるか、数学とはいかなる学問であるかの大枠を知ることを目的とする。具体的には、「数理の考え方」、「情報と数理」、「現象の数理」の3授業科目がある。
   上記3分野のうち、非専門分野2つのそれぞれに関して、8単位(2単位×4科目)を修得する。
(2) 外国語科目
  外国語科目は、高等学校までの外国語教育の基礎のうえに、国際化に対応できる外国語のコミュニケーション能力の育成と幅広い国際的な文化理解を深めることを目標とする。
  英語のねらいは、第一に、グローバルな情報化社会にあって、日常的、専門的ニーズに即応するため の英語の水準に到達すること、第二に、人文・社会・自然の3分野の教材を学ぶことにより、学生自身の専門に関連する知識に即して英語を自由に活用するとともに、自己の専攻領域だけでなく、様々な領域にわたる学習機会により、国際社会で通用する幅 広い教養を習得することにある。
  未修外国語は、「英語プラスもうひとつの外国語を」という国際化時代の要請に応えるために、独語、
 仏語、中国語、ロシア語のいずれかについて、初級
 から中級までのコミュニケーション能力を学生が身につけ、これらの言語を母国語とする社会と異文化 への関心と理解を深めることを目標とする。
  具体的には、1〜2年次にかけて、外国語第T(英 語)を6単位、外国語第U(独語、仏語、中国語、ロシア語から1科目選択)を5単位修得する。
(3) 健康・スポーツ科学
  健康・スポーツ科学は、身体と健康に関する全ての学問を学際的な視野のもとで総合化し、新しい総合人間科学としての健康科学を教育し、バイオメカ ニクス、運動生理学など自然科学的知見に基づいて、 身体運動と人体の機能・能力との関わり及び安全で 効率のよい身体運動についての知的理解を促し、健康で豊かな生活実践及び能力開発の知識を習得することを目標とする。
  具体的には1〜2年次にかけて講義2単位(1科目)、 実習2単位(1単位×2科目)を修得する。
(4) 専門基礎科目
  専門基礎科目は、各学部における専門教育に向けた基礎的知識を習得することを目標とする。4(6)年一貫教育体制のもとで、大学教育は、学生が幅広い教養を身につけるだけでなく、それぞれの専攻領 域の学識を深めることが要請され、多くの専門分野では学問の性質上、系統的・累積的な知識・技術の 習得が不可欠であり、基礎的、入門的な内容から、より高度な内容へという体系だった教育課程の編成 を必要とする。そこで、従来、一般教育科目及び学部で開講していた科目から、学部での専門分野の知識の習得に向けて、その基礎となる科目を整理統合し、学部一貫教育の観点から専門教育の中にこれら を組み込みながら、学部での専門教育の基礎教育、準備教育、導入教育として、複数の学部に関係する 科目を全学共通授業科目として開講する。
  修得単位数に関しては、学部ごとに必要に応じて設定している。
(5) 資格免許のための科目
  大学は次世代の知的市民の育成だけでなく、大学教育を基礎にした教員の養成にも責務を負っている。 そこで、中学校、高等学校の教員免許状の取得を目 指す学生に対して、教職的教養の教育を行うために、全学的に履修可能な科目について、これを全学共通 授業科目の一部として開講する。
  具体的には、「日本国憲法」がこれに当たる。
(6) その他必要と認める科目
  幅広い教養とともに、人間性を涵養する教養教の一部として、主題別に編成された教養原論では十分に対応できない学際的な分野や時事的なテーマ、人間社会の根本に関わる人権問題、あるいは体験的な学習経験などを深めることをねらいとして、総合教養科目を、全学共通授業科目として開講する。
 
(3)教育方法
 平成5年度から新しい教養教育体制のもとで、従来の一般教育科目に相当する部分を改編して全学共通授業科目とし、その企画・運営は大学教育研究センターが責任を負い、全学共通授業科目の担当教官によって組織する14の教科集団が実施に当たっている。以後、本学の教養教育の理念・目標の実現に向けて、「わかりやすく興味ある授業」、「魅力ある授業」、「教える側も学ぶ側もともに喜びを感じることのできる教養教育」となるよう、教科集団と大学教育研究センターが力を合わせて様々な取り組みを行っている。
 担当教官間の相互性を高め、学生の学習を支援するため、大学教育研究センターは平成7年度から、それまでの講義要綱とは質・量ともに大きく向上させた全学共通授業科目のシラバスを全ての担当教官と教科集団に配布し、インターネット上で一般公開している。平成8年度からはシラバスに担当教官の研究室、電話、オフィスアワーを表記し、教官と学生との接触がとれるようにしている。
 全学共通授業科目は、講義、演習、実験、実習、実技などの授業形態をそれぞれの科目の目標と現状にあわせて設定し、クラスサイズも適正となるよう努めている。現在、「教養原論」と「健康・スポーツ科学」の講義は全て、「資格免許のための科目」と「その他必要と認められる科目」はほとんど、専門基礎科目は一部が受講生100名以上の講義形式であり、大規模授業の解消に課題を残しているが、今のところ受講者数制限はしていない。しかし、同一授業科目を複数開講する等その解消に努めている。「外国語科目」、「健康・スポーツ科学」の実技、「専門基礎科目」の実験・実習は概ね1クラス50名前後の規模となるよう予め調整している。「総合教養科目」では従来の単一担当者による講義形式の授業のほか、オムニバス形式のリレー講義、内海域機能教育研究センターとタイアップした野外・体験型の少人数授業、自己理解を目標とするグループワーク中心の少人数授業、SCSを用いた遠隔授業など、新たな授業形態を導入し成果をあげている。
 授業方法についても様々な工夫・改善をしている。
「教養原論」は、講義形式の大規模授業が少なくないが、最新の話題を盛り込み、平易な説明を心がけ、視聴覚教材を活用し、配付資料を工夫し、実験デモンストレーションなどの体験を取り入れ、話し方や板書もていねいにする等、非専門の学生が興味をもてる授業づくりに取り組んでいる。「外国語科目」では、例えばフランス語の授業で寸劇やシャンソンを活用する、ミニスピーチコンテストを開催するなど、学生のモチベーションを高める工夫をしている。「健康・スポーツ科学」の講義は、毎年保健管理センター所長が参加して大学生の疾病予防や健康管理への啓蒙をしている。
 学生による授業評価は、以前から多くの担当教官により、自主的に自分にあった様式でなされてきていたが、平成12年度において全ての全学共通授業科目について学生による授業評価を統一した質問票を用いて実施し、分析結果を各担当者と当該の教科集団にフィードバックした。
 実験、実習、実技については、教務支援職員とティーチング・アシスタント(TA)が授業補助に当たることで学生の安全面・学習面への配慮をしている。さらに最近では、学生の論理的な思考力や実践的な計算能力の向上のための新たな試みの一環として、積極的にTAの導入をしている。そのことによって、担当教官の負担を緩和するだけでなく、課題、小テスト、レポートのチェックや返却など、きめ細かな学習指導が可能となっている。
 学習環境についても学生の学習支援を促進するいくつかの取り組みをしてきた。平成8年度にSCS設備を設置した。外国語学習を支援するため、平成8年度にはLL教室を充実し、平成11年度には語学トレーニング室を新設した。情報科学については、総合情報処理センターの協力を得て、平成8年度と平成12年度にインターネット対応の大規模なパソコン教室を設け、実習・自習環境を飛躍的に改善した。図書室については、平成11年度に国際・教養系図書室の学習用図書を拡充するとともに改修工事を行い、より多くの学生が快適に学習できる環境を整備した。教室については、教育設備機器の更新・拡充等により、担当教官が視聴覚教材を容易に使えるようになった。さらに、夏期に暗幕をしてプロジェクターを使用しても快適になるよう、順次、教室に空調設備を設置する計画が進んでいる。
 成績評価については、全学共通授業科目のシラバスに十分なスペースを設け、担当教官に成績評価の基準や手段を明示するようにしている。最近では大部分の科目が期末試験だけでなく授業への積極的参加、授業中の課題、レポート、小テストなど多様な資料をもとに、多元的・総合的に成績評価をするようになっている。大学教育研究センターは、成績評価の適正化を図ることを目的として、成績評価の分析を進めており、平成12年度において、平成5年度から平成10年度までの全学共通授業科目の成績評価の分析を行い、その結果を当該の担当教官と教科集団にフィードバックした。