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2022年6月23日にジャンモネCoEアウトリーチシンポジウム 「Smart Cityの現在地点~Current State of Smart Cities~」を開催しました

  2022年6月23日(木)、神戸大学ジャンモネCoE主催で「Smart Cityの現在地点~Current State of Smart Cities~」と題したアウトリーチシンポジウムを開催しました。オンライン配信および神戸大学百年記念館六甲ホールを会場とし、ハイブリッド形式で行われたこのシンポジウムには、オンラインには92名、六甲ホールの会場には24名、計116名の参加者が集まりました。このイベントは、EURAXESS JapanとEUインスティテュート・イン・ジャパン(EUIJ)関西が共催し、兵庫県、神戸市および在日スペイン大使館経済商務部が後援しました。
 神戸大学創立120周年記念事業の一環として開催された本シンポジウムは、中村保教授(神戸大学理事・副学長、大学改革・デジタル化・評価担当)の歓迎の辞で幕を開けました。久元喜造神戸市長はビデオメッセージで、神戸市のスマートシティプロジェクトを紹介する機会を得たことに感謝の意を示しました。次に、Michael Donaldson氏(バルセロナ市議会技術革新・電子行政・グッドガバナンス担当委員)は、同様にビデオメッセージを通して、バルセロナ市の最新技術を活用した取り組みを共有できる機会を与えられたことに感謝し、来年は神戸市・バルセロナ市の姉妹都市提携30周年であると述べました。
 続いて、4名からそれぞれの活動紹介が行われました。まず、岡山裕司氏(神戸市企画調整局・副局長)は「神戸市におけるスマートシティの取り組みについて」と題した活動紹介の中で、KOBEスマートシティプロジェクトにおいては、市民の目線でスマートシティを作っていくことが大前提であることを強調しました。岡山氏はプロジェクトの目的を紹介するとともに、プロジェクト推進コンソーシアムを設置し、どのように市民、事業者、行政が一体となって新しい技術とデータを活用した共創のまちづくりをしているかについて説明しました。
 次に、藤井信忠准教授(神戸大学大学院システム情報学研究科)は、「神戸大学のスマートシティの取り組み」として、スマートシティプロジェクトの背景を説明し、神戸が人(ひと)中心のスマートシティを目指していることを明言しました。また、自らが携わる神戸市の三宮地下街(さんちか)での人工知能(AI)を駆使し人の行動を予測し気流制御することでエネルギー消費を削減している実証実験の例を挙げ、スマートシティを設計する際に、革新的な実験がどのように活用できるかを詳説しました。
 続いて、南雲岳彦氏((一社)スマートシティ・インスティテュート専務理事)が「市民の幸福感を高める暮らしやすさの指標-Liveable Well-Being City Indicatorの活用」について活動紹介を行いました。まず、「国連世界幸福度ランキング(2022)」において、日本は世界54位であり、“人生の自由度”が低く、LWC(Liveable Well-Being City)指標をより重視する必要があることを強調しました。南雲氏は、LWC指標を用いたスマートシティのロジックモデルを解説し、日本において産官学民が協働し人間中心主義のスマートシティを実現するには、LWC指標を重要視するべきであると述べました。また、スマートシティは人々の生活を向上させるための方法、手段であるべきだと強調しました。
 最後の活動紹介として、米沢竜也氏(EURAXESS Japan カントリー・レプレゼンタティプ)は、「日欧研究者のモビリティ」と題して、EURAXESS Japanが日欧間の研究者の移動促進と機会提供を目的として実施している取り組みを紹介しました。また、欧州研究開発支援枠組みであるHorizon Europeにて、スマートシティや気候中立への取り組みもミッションエリアになっていることに触れました。続いて、Bernadett Köteles-Degrendele氏(シニアアドバイザー)が、「スマートシティか、よりスマートなコミュニティか?」と題して、ビデオメッセージで、自身の研究成果を紹介しました。Digital Europe Programme(企業や行政にデジタル技術を導入するためのEU資金援助プログラム)およびLiving-in.EU運動(都市やコミュニティのデジタル変革を加速させるための都市主導型プラットフォーム)の2つの取り組みを例として挙げ、欧州におけるデジタル変革がユーザー個人からより広いコミュニティへと対象が変化していることを指摘しました。
 4名の活動紹介に続き、Josep Bohigas氏(バルセロナ地域・都市開発局局長)が「バルセロナに於ける先進的な都市計画」と題して招待講演を行いました。まず、世界各地で実施されている都市部における市民生活向上のためのプロジェクトには、「近接性(proximity)」という共通点または共通のキーワードがあることを指摘し、徒歩15分圏内で必要なモノやサービスに容易にアクセスできる「コンプリート・ネイバーフッズ」を実現している世界の多くの都市を紹介しました。バルセロナはコンパクトで多様性のある都市であることから、近接型都市という意味では持続可能な都市モデルになり得ると述べました。Bohigas氏は、具体的な地図や図表、市内の写真などを見せながらバルセロナの都市再生戦略について詳説しました。また、現在実施している数多くのプロジェクトの中から、スーパーブロック(街の一区画をスーパーブロックと捉え直し、その区画内への自動車の乗り入れを制限し、市民の生活空間を広げる取り組み)の推進を取り上げ、この取り組みによって、バルセロナの大気汚染の軽減と公共空間の質の向上につながっていることを紹介しました。
 最後に、藤井准教授の司会で行われたパネルディスカッションでは、Bohigas氏と南雲氏の両氏がパネリストとして登壇しました。このパネルディスカッションでは次の3点について話し合われました。まず1点目は、都市計画において「proximity(近接性、近さ)」がキーワードとなってくるが、新型コロナウイルスの世界的大流行で多くの人がリモートワークを始めた今、物理的または精神的な距離をどのように捉えられるべきかについて議論されました。パネリストの両氏は、新型コロナウイルスの流行で人々の移動が減少することによって我々の生活自体が(昔に)逆戻りまたは後退し、近所との付き合い方やコミュニティの中での自分のアイデンティティを見直す必要に迫られているという点で意見が一致しました。Bohigas氏は、その例として、バルセロナではお互いが知っている近所同士が改めて互いの存在を再認識し、彼らのコミュニティを再構築しようとしていると述べました。2点目は、神戸ならではのスマートシティを構築するためには、どのような特徴的なモデルを考えていけばよいのかについて議論されました。南雲氏は、一般的に市民が心理的な幸福感やワクワク感を持つことが必要であり、都市が持つ資産(都市景観など)をもっとアピールするべきだと指摘しました。Bohigas氏は、あくまでもスマートシティはツール(手段)であり、コンセプト(概念)であるため、今回のプレゼンテーションでは「スマートシティ」という言葉を使っていないという点を力説し、神戸がスマートシティを構築するにあたり必要なのは、まずはモデルであり、その次にテクノロジーだと考えるとコメントしました。3点目は、参加者からの質問で、都市におけるアートの重要性について議論されました。Bohigas氏は、フランコ独裁政権後のスペインでは、民主主義を推進するため、また新しいアイデアやアートを生み出すために、公共の空間(広場など)が設置されたことに触れました。南雲氏は、有名なマズローの欲求階層説を引き合いに出して、アートの重要性を説明し、文化資本は集団帰属欲求(皆と一緒に芸術を楽しみたいという欲求)、自己実現欲求(自己表現したいという欲求)、そして自己超越欲求(芸術家を支援したいという欲求)に関連していると指摘しました。
 その後、閉会の挨拶として、吉井昌彦教授(神戸大学ジャンモネCoE代表)は、デジタル変革において、誰も取り残されないようにするために、人を大切にする社会の重要性を改めて強調しました。また、スマートシティの構築に向けて、神戸大学と神戸市の連携強化に期待を寄せると述べました。本シンポジウムは、日欧のスマートシティの現状を深く掘り下げるとともに、日欧の専門家による意見交換の場となりました。


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国立大学法人 神戸大学