大教・春











全学共通教育ベストティーチャー賞
  

 法律や政治は,本来誰にとっても身近で重要なもののはずなのに,法学部以外の他学部生には敷居が高く感じられるのだろう,教養科目としては敬遠される傾向があるようだ。自分の講義では,まずそうした先入観を取り払い,わかりやすく,楽しく,法や裁判の意義を感じてもらえるものとなるよう,心がけてきた。具体的には,法廷ものといわれるジャンルの邦画・洋画や,悪徳契約で主人公たちが苦しむアニメ作品(ただしこちらは硬い社会派ものではなく,『魔法少女まどか☆マギカ』というファンタジーSF)などをとりあげ,映像の一部を紹介しながら,裁判の仕組や法律の基礎,作品ごとに問題となっている法的論点などを,一般向けになるべくわかりやすく紹介することにしている。
 
 一方通行の大講義は飽きられやすいが,講義と映像を交互に挟むことで,メリハリをつけられる。ちなみに講義で一番最初に取り上げるのは,上述の『まどか☆マギカ』というアニメで,意外性・話題性がありキャッチーな「つかみ」となっているようだ。他方そのため学生には,「アニオタ(アニメオタク)教授」などともいわれているらしいが,まあなんとでも呼んでくれ。

 映像以外のレジュメその他の関連資料はすべてBEEF(神戸大の学習支援ネットワークシステム)にあげておき,そちらを参照するように指示しており,プリントなどは用意しない。レジュメは重要語句を既に赤字で入れている完全版で,受講生は頻繁にノートを取ることは求められない。楽すぎる講義かもしれないが,法学を積極的に学ぶインセンティブを原則持たない人たちを前提に,限られた時間の中でなるだけ多様な素材に触れてもらうための措置である。またBEEFには,試験勉強に役立つよう,重要語句を消してブランクとしたレジュメも併せて載せ,自由に参照してもらっている。

 単位認定については,期末試験だけでの評価は不安が大きいようなので,講義期間の中頃を締め切りとした任意提出のレポートを課している。課題は二つで,一つは講義で扱う映像作品のうちの一つを取り上げて,最後まで通して鑑賞し,感想を1000字以上で書け,というもの。もうひとつは,講義では取り上げられない多くの映像作品のリストを渡して,そのうちの一つを選び鑑賞し,あらすじと法律や裁判に関わる論点を考察して書け,というもの。二つの課題は一方だけの提出でもかまわない。配点はそれぞれ10点満点で,最高で20点。これは100点満点の期末試験に対する加点要素とし,レポート未提出の者も不利益にならないようにしている。ちなみにこのレポートの提出もBEEFを使っている。そのため締切厳守で,データ管理も楽である。またこちらからのフィードバックも簡単にでき,実際コメントと評点を提出者には講義期間中に伝えている。提出したレポートに返事が帰ってくるという経験は,受講生にとって新鮮なようで,授業振り返りアンケートでも時々「嬉しかった」と書かれることがある。また受講生からのレポートの中には,感動する作品と出会ったのだろう,とても力のこもったものがしばしば寄せられる。そういうものを読むのも,率直に嬉しいことである。

 またこのレポートによる加点の効果として,提出者は,安心して試験勉強を手抜きするのではなく,むしろせっかく加点があるのだからちゃんと単位を取ろうという気持ちが強まるようである。試験の解答を読んでも,それなりに一生懸命レジュメを理解しようとしている様子が伺えるものが多い。もちろん例外はあって,レポートを出しても単位を落とす受講生は毎回残念ながら出る。ちなみに自分の講義において単位不認定率は,だいたい毎回1割程度である。レポート作成と試験勉強にはそれなりに手間もかかるはずで,決して「楽単科目」ではないと思う。なお試験前には,授業振り返りアンケートへの回答をするように受講生には依頼し,一定数の回答が得られれば,過去問を公開したりしている。
 
 授業振り返りアンケートの受講生の自由記述の中に,「先生自身が楽しんで講義をしているのが印象的だった」というものがあった。結局大事なのはそういうことなのかな,とも思う。

 以上参考になれば幸いです。

 最後に,『魔法少女まどか☆マギカ』は,大人の鑑賞にも耐える,日本アニメの最大傑作の一つです。総合・国際文化学図書館のAVコーナーにもDVDが入っていますので,騙されたと思って,ぜひ一度ご覧になってください。









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